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東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)170号 判決

原告 溝渕春次

被告 日本弁護士連合会

主文

被告が昭和四八年一〇月八日原告に対してした審査請求を棄却する旨の裁決は、これを取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文第一項と同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者双方の主張

一  原告訴訟代理人は、その請求原因として、次のとおり陳述した。

(一)  原告は、昭和四五年二月一八日大阪弁護士会に対し入会申込をするとともに被告への弁護士名簿登録請求をしたところ、同弁護士会は同四六年九月一三日の資格審査会の議決に基づいて右進達を拒絶し、翌四七年三月二日その旨原告に通知した。そこで、原告は、同年四月一三日行政不服審査法に基づいて被告に対し審査請求をしたところ、被告は資格審査会の議決に基づき同四八年一〇月八日右審査請求を棄却する旨の裁決をし同月一一日原告に右裁決書を送達した。

(二)  しかしながら、右裁決は違法である。すなわち

(1) 大阪弁護士会の資格審査会議決書には、「三回の審査の結果に基き本件登録請求の進達の可否については全委員一致の意見により無記名投票による採決を行うこととし、票決を行つた結果は左のとおりであつた。登録の進達を可とするもの四票、可としないもの七票、よつて主文のとおり決定した。」と記載されているのみで、その理由はなんら挙示されていない。したがつて、これを容認した原裁決は、弁護士法第一二条の二に違反して違法である。

(2) 大阪弁護士会資格審査会が登録の請求の進達を拒絶するを可とする議決をするに当つては、あらかじめ原告に対しその旨を通知し、かつこれに関しての陳述及び資料の提出をする機会を与えるべきであるのに、原告はそのような事前の通知を受けず、そのため不利益議決に対する防禦を十分尽すことができなかつたのであるから、右議決を容認した原裁決には、弁護士法第五五条第二項の違反がある。

(3) 被告の資格審査会が、原告の審査請求を棄却した理由は、原告には二個の刑事処分がありその執行猶予期間を経過しても、一般弁護士及び弁護士会の信用を害する虞れがあるということ及び原告の心身の故障が弁護士の職務を行なわせることにその適正を欠く虞れがある、というにあるが、原告には、そのような虞れはない。

(三)  よつて、原告は、弁護士法第一六条の規定に基づいて被告に対し被告が昭和四八年一〇月八日した審査請求棄却の裁決の取消しを求めるため、本訴請求に及んだ。

二  被告訴訟代理人は、請求原因に対する答弁並びに主張として、次のとおり陳述した。

請求原因(一)の事実を認める。

同(二)の(1)を争う。

大阪弁護士会の処分について理由の記載のないことは、同処分の違法理由とはならない。

同(二)の(2)の事実を否認する。

大阪弁護士会資格審査会は、昭和四六年八月二七日原告に対し弁護士法第五五条の規定により同年九月三日同資格審査会に出頭するよう通知し、原告は同日右審査会に出頭して意見陳述をしたばかりでなく、同年三月一〇日付上申書を提出して右審査会に受理されているから、大阪弁護士会の原処分に違法の廉はない。

同(二)の(3)の事実のうち、原裁決の理由が原告主張のとおりであることを認めるが、その余の事実を争う。被告が、原告の本件審査請求を棄却した理由を詳言すると、次のとおりである。

(1)  原告は、大正八年立命館大学を卒業し、同一三年弁護士試験に合格、翌一四年大阪弁護士会に入会して弁護士業務を開始したが、昭和四〇年四月二四日後記二件の刑事々件につき有罪判決が確定したため、被告において弁護士法第一七条第一号、第六条第一号により原告の弁護士名簿の登録を取消した。

(2)  その後原告は、大阪弁護士会を経て本件弁護士登録の請求をしたが、同会は資格審査会の右登録請求の進達を拒絶する旨の議決に基づいてこれを拒絶し、被告も資格審査会の議決に基づき、原告の右処分に対する審査請求を棄却する旨の裁決をしたが、その理由は、次のとおりである。

(イ) 原告は、昭和三六年三月一五日大阪地方裁判所において別紙(一)記載の犯罪事実により、懲役二年に処する旨の判決言渡しを受け、これに対して控訴を申し立てた結果、同三八年一一月二六日大阪高等裁判所において原判決破棄、懲役二年、執行猶予四年の判決がなされ、該判決は同四〇年四月二四日確定した。

さらに、原告は、同三八年一二月一四日大阪地方裁判所において、別紙(二)記載の犯罪事実により、懲役一〇月、執行猶予三年の判決言渡しを受け、該判決は同四〇年四月二四日確定した。

(ロ) のみならず、原告は、昭和四七年六月二七日脳梗塞症を発病し、被告資格審査会の出席要請に対しても、再三出席を延期し、同年九月四日に至り、漸く付添人の助けを得て出席したが、歩行困難で言語にも著しい障害が存在した。

(ハ) ところで、弁護士は、依頼者からの信頼を裏切らないばかりでなく、基本的人権を擁護し、社会正義を実現すべき重大なる使命を有しているのであるから、誠実にその職務を行ない、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力し、さらにその教養、識見、品性などの陶冶に努め、法律及び法律事務に精通して一般国民の信頼に応えなければならない崇高な使命と重大な職責を有するものである。

右弁護士の使命及び職責に照らし、原告の前記各犯罪についてみると、その刑の執行猶予期間は経過したけれども、弁護士法第一二条第一項前段に定める一般弁護士ならびに弁護士会の信用を害する虞ありと認めるべきであり、かつ、その健康状態は、同項第一号に該当する心身の故障があつて弁護士の職務を行なわせることがその適正を欠く虞れがあるというべきである。

したがつて、被告のなした本件裁決は正当であるから、原告の本訴請求は失当として棄却さるべきものである。

三  原告訴訟代理人は、右主張に対する認否並びに反論として、次のとおり陳述した。

被告の主張事実のうち、(1)、(2)の(イ)の事実及び同(ロ)の事実のうち、原告が被告主張の日に脳梗塞症を発病したこと及びその主張の日に被告資格審査会に出席した事実を認めるが、その余の事実を争う。

(一)  原告に対する刑事処分の対象となつた犯罪事実のうち、別紙(一)記載第一の(一)ないし(一二)及び第二、第三の事実は、すべて原告の政治家としての地位に関連して行なわれたものであり、弁護士としての職務遂行に関連して行なわれたものは、僅かに同第四の事実に過ぎない。

のみならず、原告は、弁護士開業以来約三五年間弁護士業務に従事し、その間大阪弁護士会新星会幹事長、軍法会議弁護士会常任理事、さらに政友会大阪支部長、大阪府会議員、参議院議員として、その職能を通じて活躍して来たが、右刑事処分後は自粛自戒の生活を送つて右執行猶予期間を経過し、そのため右刑の言渡しがなかつたものとされたのであるから、右刑事処分の対象とされた犯罪事実から、原告を、直ちに一般弁護士及び弁護士会の信用を害する虞れがある者と断ずることは許さるべきではない。

(二)  原告には、弁護士の職務を行なわせることが適正を欠くような心身障害の事実は存しない。すなわち、原告は、脳梗塞症を発病するに至つたけれども、知的判断力の点についてはなんらの影響がなく、身体的障害も漸次恢復し、準備書面も左手ではあるが書くことができるし、言語障害も電話が可能な程に恢復し、近々治癒する状態にあるのである。

(三)  のみならず、被告の裁決は、次の点においても、違法である。けだし、被告は大阪弁護士会が進達拒絶処分をした後四カ月にして生じた原告の病気を審査の対象として原告の審査請求を棄却する裁決をしたが、これは原処分後に発生した事由を審査の対象とするものであつて許されることではないからである。

第三証拠〈省略〉

理由

一  原告が昭和四五年二月一八日大阪弁護士会に入会の申込をするとともに被告への弁護士名簿登録請求をしたところ、同弁護士会は同四六年九月一三日の資格審査会の議決に基づいて右進達を拒絶し、翌四七年三月二日原告にその旨の通知をしたこと、そこで原告は同年四月一三日行政不服審査法に基づいて被告に対し審査請求をしたが、被告は資格審査会の議決に基づき同四八年一〇月八日右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同月一一日原告に右裁決書を送達した事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、先ず、原告の弁護士資格の有無についてみるに、原告が大正一三年弁護士試験に合格し翌一四年大阪弁護士会に入会して弁護士業務を開始したが、昭和四〇年四月二四日後記執行猶予付有罪判決が確定したため弁護士名簿の登録が取消されたこと及び原告が右執行猶予の言渡しを取消されることなくその猶予期間を経過した事実は、いずれも当事者間に争いのないところであるから、原告は本件弁護士名簿登録請求当時弁護士となる資格を有していたことは明らかである。

三  原告は、被告が裁決において容認した大阪弁護士会資格審査会の議決書に理由が付されていないから右裁決は違法であると主張する。

しかしながら、弁護士法第一二条第一項は「弁護士会は、弁護士会の秩序若しくは信用を害する虞がある者又は左の場合に該当し弁護士の職務を行わせることがその適正を欠く虞がある者について、資格審査会の議決に基き、登録又は登録換の請求の進達を拒絶することができる。」と規定し、同法第七章において資格審査会の設置及び機能、組織、予備委員、会長の職務及びその身分、審査手続などを規定するに止り、右議決に関する書類についてはなんらの定めもない。したがつて、大阪弁護士会資格審査会が本件登録請求の進達を拒絶する旨の議決をした際作成された議決書に、進達拒絶の実質的理由の記載がないからといつて、これが違法であるということはできないから、その違法なることを前提とする原告の右主張は採用できない。

四  次に、原告の弁護士法第五五条第二項違反の主張について判断する。

成立に争いのない甲第三号証、乙第五号証に証人松井城、原告本人の各供述を総合すると、原告は本件弁護士名簿登録請求に先き立つ昭和四四年八月一五日大阪弁護士会への入会の申込みをすると同時に被告に対し弁護士名簿登録請求をした(右請求は同年一二月六日取下げられた。)が、その際原告は同会資格審査会の呼出しに応じて出頭し、或いは自宅において意見の陳述、弁明をし、その折作成された記録は本件の審査においても資料とされていること及び原告は本件の登録請求後の昭和四六年九月三日に弁護士法第五五条に基づく呼出しに応じて右審査会に出頭し、かつ、上申書を提出して意見陳述、弁明をし、もつて自己の立場を十分防禦している事実を認めることができ、右の事実によれば、同審査会が右請求の進達拒絶の議決をするについて、原告に対しこれを防禦するための陳述及び資料提出の機会を与えなかつたということはできないから、同審査会が右登録請求進達を拒絶するを可とする旨の議決前あらかじめ原告に対しその旨の通知をしなかつたとしても、これがため同審査会の議決を違法ならしめるものではない。したがつて、原告の右主張も採用しない。

五  被告は、原告に対する刑事処分の事実は一般弁護士及び弁護士会の信用を害する虞れがある旨主張するので、以下、この点について検討を加える。

原告が昭和三六年三月一五日大阪地方裁判所において別紙(一)記載の犯罪事実により懲役二年に処する旨の判決言渡しを受け、これに対し控訴を申し立てた結果、同三八年一一月二六日大阪高等裁判所において原判決破棄、懲役二年、執行猶予四年の判決が言渡されたこと、原告が同三八年一二月一四日大阪地方裁判所において別紙(二)記載の犯罪事実により懲役一〇月、執行猶予三年の判決言渡しを受けたこと及び右各判決が同四〇年四月二四日確定した事実は、いずれも当事者間に争いがなく、右各執行猶予の言渡しを取消されることなくその猶予期間を経過した事実は、前説示のとおりである。

右の事実によれば、原告に対する別紙(一)、(二)記載の犯罪事実による刑の言渡しは、いずれも執行猶予期間の経過により、その効力を失つたものである(刑法第二七条)が、右言渡しの事実そのものまでなかつたことになるものではなく、しかも、右の各犯罪事実は同二七年一二月ころから同三三年六月ころまで三三回にわたる詐欺、横領及び業務上横領の事案であり、その被害金額は翡翠原石の横領を除いても金二、四四八万円に達し、殊に右業務上横領の事実は、いずれも弁護士としての職務遂行に関連して行なわれたものであるから、一般弁護士の体面を損じ、弁護士会の信用にもかかわる極めて遺憾な出来事であつたというべきである。

しかしながら、原告の右犯罪事実のうち、その多くを占める詐欺、横領の事実は、いずれも政治家としての地位に関連して行なわれたものであるが、原告がその後政治家たることを断念し自粛自戒の生活を送つて来た事実は、成立に争いのない乙第一号証、原告本人の供述並びに弁論の全趣旨によつて認めることができ、これに右各判決確定後における時間の経過など諸般の事情を総合して勘案すると、右の各犯罪事実から、直ちに被告の主張するように、一般弁護士及び弁護士会の信用を害する虞れありと認定するには躊躇を感ぜざるを得ない。なお、乙第一四号証の一、二によると、原告は前示確定判決により大阪弁護士会を退会した後の昭和四一年八月二九日大阪地方裁判所同年(ワ)第四一〇号建物収去土地明渡請求事件の被告武村松治郎の依頼を受けて答弁書を作成しその手数料金三万円及び賃料供託金として金八、八〇〇円の交付を受けて、弁護士に非ずして弁護士業務を行なつた事実を認めることができるけれども、右乙号証によれば原告はその後右行為を反省してその金員も返還し、大阪弁護士会においても告発を猶予してこれを不問に付した事実を認めることができるから、右の事実によつて前叙認定を覆えすに足らず、他に原告の弁護士名簿登録によつて一般弁護士及び弁護士会の信用を害する虞れがあるとの事実を認めるに足りる証拠はない。したがつて、この点に関する被告の主張を採用することはできない。

六  さらに、被告は、原告は心身の故障により弁護士の職務を行なわせることがその適正を欠く虞れがある旨主張するので、この点について検討を加える。

原告が昭和四七年六月二七日脳梗塞症を発病した事実は、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第六号証の一、二、乙第一号証、第一二号証の一ないし四、第一三号証の一、二、証人新田望の供述によつて成立を認める甲第九号証、証人岩井清之助の供述によつて成立を認める甲第七号証に、証人新田望、岩井清之助の各供述を総合すると、原告(明治三六年六月一六日生)は昭和四七年六月二七日脳梗塞症を発病し、その後遺症として右上下肢麻痺及び失語症を後貽したが、判断力には異常がなく文字の理解も良好であること、原告は右症状のため同四八年六月四日星ケ丘厚生年金病院に入院して言語、左利手交換、日常動作、歩行など各種の訓練を受けて同年一〇月一日に退院し、その後自宅において同様の訓練を続けていたこと、その後失語症は保続が少し残るという軽度とななり、しわがれ声でゆつくりではあるが会話も可能となり、右上肢は廃用手となつて右上下肢に軽度の麻痺を後貽したが、利手交換の結果左手で書字ができ、平地における独歩も可能となつた事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右の事実によれば、原告の脳梗塞症の後遺症である失語症と右上下肢麻痺は、各種訓練の結果その障害の程度が軽度にまで恢復したというものの、なお、会話、歩行、日常動作及び書字などに多くの制約の存することは否定しえないことであつて、そのため弁護士として自ら出廷或いは現地に赴いて証人尋問の衝に当たるような極めて困難な事柄に属するものと考えられるが、判断力には異常がなく、文字の理解も良好であるというのであるから、自ら弁護士としての職務を遂行しようとする意思と熱意の存する限り、適当な介添人を付するなどして身体的障害を補い、例えば契約書の作成、助言など年令とその身体的な能力に応じ、弁護士としての職務を行なうことは必ずしもできないものではなく、また、原告に右のような職務を行なわせることが、その適正を欠くと認めるに足りる証拠もない。そして、証人大月伸の供述によつて成立を認める甲第一〇号証に証人村井城、大月伸の各供述を総合すると、大阪弁護士会所属弁護士中にも原告の入会を支持する向きが少なからず存する事実を窺うことができるのである。

これを要するに、原告の脳梗塞症による後遺障害の程度によつては、いまだ弁護士の職務を行なわせることがその適正を欠く虞れがあると認めることはできないというべきであるから、この点に関する被告の主張も、また採用することができない。

七  以上の次第であるから、大阪弁護士会において原告の本件弁護士名簿登録請求の進達を拒絶した措置を是認するとともに、身体障害の存することを理由に原告の審査請求を棄却した被告の裁決は失当であつて、右裁決の取消を求める原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本元夫 鰍沢健三 長久保武)

別紙(一)

犯罪事実

被告人は、大阪弁護士会所属弁護士であり、昭和二五年三月から昭和二七年三月まで自由党大阪府支部連合会幹事長、同年四月から昭和三一年一一月まで同連合会支部長、同年一一月から自由民主党大阪府支部連合会顧問等に就任し、その間昭和二六年四月の参議院大阪地方区補欠選挙に当選したが昭和二八年五月の参議院議員選挙、昭和三〇年二月の衆議院議員選挙、次いで昭和三一年五月の参議院議員選挙に立候補していずれも落選したものであるが、右各選挙の費用等を調達するため

第一 日本長期信用銀行から融資を斡旋してやれる確実な見込もなく、又その意思もないのに、折柄の不況のため資金難に苦しむ中小企業者に対し、同銀行幹部と特別且つ緊密なる連繋があり、自己の発言があれば容易に同銀行から長期返済方式による低金利の事業乃至設備資金の融資が受けられるかの如く装い、その融資斡旋の運動資金等の名目で金銭を騙取しようと企て

(一) 昭和二七年一二月頃、大阪市阿倍野区阿倍野筋三丁目一三番地の当時の自宅等において、同市東淀川区豊里菅原町六〇番地所在衣料縫製加工業広田縫工株式会社専務取締役広田耕太郎に対し「日本長期信用銀行から設備資金五〇、〇〇〇、〇〇〇円の融資斡旋をしてやる。その条件として融資額の六%にあたる三、〇〇〇、〇〇〇円を自由党に寄附することとし、先ずその半金を現金で提供しなければならない。若し融資が不成功の際は必ず返済する」等と申し向け、同人の推薦によれば容易且つ確実に申込金の借入ができ得るものと誤信させた上、その頃前記自宅において、同人から運動資金名下に額面一、五〇〇、〇〇〇円の小切手一通の交付を受けてこれを騙取し

(二) 昭和二八年一月頃前記自宅において、同市城東区今福北二丁目三〇番地所在砂糖精製業新光製糖株式会社副社長岡田伊久三郎に対し、前同様日本長期信用銀行から設備資金一億円の融資斡旋方を申し向けて同人を前同様誤信せしめたうえ、その頃前同所において同人から運動資金名下に額面三、〇〇〇、〇〇〇円の小切手一通の交付を受けてこれを騙取し

(三) 同年三月頃、京都市伏見区深草芳水町六六六番地所在ボールトナツト製造業株式会社寺内製作所社長寺内梅次郎方において、同人および同社取締役能登篤等に対し、前同様日本長期信用銀行から設備資金一億円の融資斡旋方を申し向け、同人等をして前同様誤信せしめたうえ、同月一九日頃前記被告人自宅において前記寺内梅次郎から運動資金名下に額面三、〇〇〇、〇〇〇〇円の小切手一通の交付を受けてこれを騙取し

(四) 同年三月頃、前記自宅において、堺市鳳東六丁目五七〇番地の一所在ベアリング製造業旭精工株式会社々長広瀬省三に対し、前同様日本長期信用銀行から設備資金五〇、〇〇〇、〇〇〇円の融資斡旋方を申し向け、同人をして前同様誤信せしめたうえ同月二四日頃、前同所において同人から運動資金名下に現金一、五〇〇、〇〇〇円の交付を受けてこれを騙取し

(五) 同年五月頃、大阪市大正区新千歳町二番地合資会社丸神鉄工所代表取締役神田元善方において、同人およびその長男直一等に対し、前同様日本長期信用銀行から設備資金二〇、〇〇〇、〇〇〇円の融資斡旋方を申し向け、同人等をして前同様誤信せしめたうえ、その頃、前記被告人自宅において、同人等から運動資金名下に現金六〇〇、〇〇〇円の交付を受けてこれを騙取し

(六) 同年九月頃、前記被告人自宅において、同市浪速区反物町一、三二〇番地所在亜鉛引鉄板製造業淀川金属株式会社取締役経理部長宮本純一に対し、前同様日本長期信用銀行から事業資金六〇、〇〇〇、〇〇〇円の融資斡旋方を申し向け、同人をして前同様誤信させたうえ、同月二〇日頃前同所において、同人から運動資金名下に額面合計一、八〇〇、〇〇〇円の小切手二通の交付を受けてこれを騙取し

(七) 同年九月頃、前記被告人自宅において、同市東淀川区野中北通一丁目一番地所在工具製造業株式会社日本工具製作所社長紺谷富吉に対し、前同様の日本長期信用銀行から設備資金二〇、〇〇〇、〇〇〇円の融資斡旋方を申し向け、同人をして前同様誤信させたうえ、同月二四日頃、同市北区堂島堂ビル九階清交社において、同人から運動資金名下に額面六〇〇、〇〇〇円の約束手形一通の交付を受けてこれを騙取し

(八) 同年五月頃から同年一一月頃までの間数回にわたり前記被告人自宅および同市此花区伝法町一丁目五七番地所在鉄板鉄骨製造業奥小路工業株式会社々長奥小路民蔵方等において、同人および同会社総務部長中瀬基義等に対し、前同様日本長期信用銀行から設備資金五〇、〇〇〇、〇〇〇円の融資斡旋方を申し向け、同人等をして前同様誤信させたうえ、同年一一月一〇日頃前記被告人自宅において、前記中瀬基義を介し前記奥小路民蔵から運動資金名下に現金一、五〇〇、〇〇〇円の交付を受けてこれを騙取し

(九) 同年九月頃、前記被告人自宅において、尼崎市潮江字上佃二番地所在自動車部品製造業株式会社平尾製作所社長平尾正康に対し、日本長期信用銀行から設備資金一億円の融資斡旋方を申し向け、同人をして前同様誤信させたうえ、同年一〇月二二日頃から翌昭和二九年一月二〇日頃までの間前後三回にわたりいずれも前記被告人自宅において、同人から運動資金名下に現金合計三、〇〇〇、〇〇〇円の交付を受けてこれを騙取し、

(十) 同年一〇月頃、大阪市東区大手通二丁目三番地溝淵法律事務所において、同市西区北境川町一丁目五四番地所在鉄骨等製造業山本鉄工株式会社々長山本保一、同社取締役乾茂等に対し日本長期信用銀行から事業ならびに設備資金五〇、〇〇〇、〇〇〇円の融資斡旋方を申し向け、同人等をして前同様誤信させたうえ、同年一〇月二八日頃および同年一一月五日頃の両回にわたり前記被告人自宅および前記被告人法律事務所において、前記山本保一から直接又は前記乾茂を介し運動資金名下に額面合計一、五〇〇、〇〇〇円の約束手形および小切手各一通の交付を受けてこれを騙取し

(十一) 同年一一月頃、前記被告人自宅において尼崎市昭和南通三丁目一一番地所在電気工事等請負業共栄電機株式会社々長増本勇に対し、前同様日本長期信用銀行からの事業ならびに設備資金一五、〇〇〇、〇〇〇円の融資斡旋方を申し向け、同人をして前同様誤信させたうえ、同年一二月二七日頃前記被告人自宅において、同人から運動資金名下に現金二〇〇、〇〇〇円および額面二五〇、〇〇〇円の小切手一通の交付を受けてこれを騙取し

(十二) 昭和二九年二月頃、前記被告人自宅において、大阪市大正区恩加島町一番地所在鉄骨等製造業株式会社片山鉄工所専務取締役島田孝治に対し、前同様日本長期信用銀行から設備資金一億円の融資斡旋方を申し向け、同人をして前同様誤信させたうえ、同年三月一日頃および同月一〇日頃の両回にわたりいずれも前記被告人自宅において同人から、運動資金名下に現金三、〇〇〇、〇〇〇円の交付を受けてこれを騙取し

第二 昭和二八年三月頃東京都港区麻生広尾町一番地熊生栄方等において、埼玉銀行本店から融資斡旋をしてやれる確実な見込もなく、又その意思もないのに、恰かも同銀行本店頭取平沼彌太郎と特別な連繋がある如く装い、大阪地方裁判所において、昭和二七年一二月一八日更生手続開始決定を受けた豊中市圧内菰江五五番地所在の更正会社マモル工業株式会社代表取締役行平百太郎に対し「埼玉銀行の頭取と特別昵懇な仲であるから同銀行よりマモル工業株式会社の更正資金二〇、〇〇〇、〇〇〇円を融資するよう斡旋をしてやろう。ついては運動資金五〇〇、〇〇〇円を提供してくれ」等と申し向け、同人をして被告人の周旋により確実に融資が受けられるものと誤信させ、よつてその頃前記熊生栄方および大阪市南区宗右エ門町一八番地料亭「河合」において、同人から運動資金名下に現金合計五〇〇、〇〇〇円の交付を受けてこれを騙取し

第三 昭和二九年四月頃、前記第一の(九)掲記の株式会社平尾製作所社長平尾正康に対し「長期信用銀行からの融資が実現するまでのつなぎ資金としてキツコーマン醤油(千葉県野田醤油株式会社)から手形割引による融資を世話してやろう」等と申し向け、その頃、同人から平尾製作所振出の約束手形八通額面合計一四、〇〇〇、〇〇〇円を自己に交付させ、これを同人のため預り保管中、その頃、大阪市内において「額面五〇〇、〇〇〇円、満期同年六月二一日、支払場所大和銀行尼崎支店」なる約束手形一通を自己の用途に充てるため擅にこれを着服して横領し

第四 同年九月頃、箕面市桜五八三番地に居住し、大阪市北区曽根崎上三丁目四番地宅地二四坪五合二勺を書籍商宮崎理平に賃貸している地主岩田喜久から地代増額延滞地代各請求訴訟事件の委任を受け、共同代理人弁護士村田太郎とともに右事件を担当していた際、昭和三一年七月二七日被告宮崎理平との間に裁判上の和解が成立し、被告宮崎理平は和解条項に従い第一回の支払金二〇〇、〇〇〇円、爾後毎月末七〇、〇〇〇円宛の地代をその代理人古野周蔵を介して原告に支払をすることとなつたが

(一) 昭和三二年二月九日頃、和解成立直後から昭和三二年一月までの地代四八〇、〇〇〇円を前記村田太郎から交付を受けこれを前記岩田喜久のため業務上保管中、その頃、大阪市東区大手通二丁目三番地の自己の法律事務所において、自己の用途に充てるため擅にこれを着服して横領し

(二) 昭和三二年二月二八日頃から昭和三三年四月末日頃までの間前後一五回にわたり、別表一覧表のとおり、前記宮崎からその代理人古野周蔵を介し交付を受けた毎月の地代合計一、〇五〇、〇〇〇円を前同様右岩田のため業務上保管中、その頃、その都度自己の用途に充てるため前同所において擅にこれを着服して横領し

第五 昭和三三年六月二八日頃、債権者新谷安太郎から債務者吉浦新三郎に対する金二、〇〇〇、〇〇〇円の債権回収策として、右吉浦の所有する大阪市阿倍野区阿倍野筋一丁目八八番地の一宅地二一一坪三合三勺外一筆の仮差押命令申請をなすよう委任を受け、同日保証金として現金五〇〇、〇〇〇円の交付を受け、これを新谷のため業務上保管中、その頃前記被告人法律事務所において、自己の用途に充てるため擅にこれを着服して横領し

たものである。

犯罪一覧表

番号

金員受交付年月日

着服年月日

金額

金員受交付場所

着服場所

昭和

三二、二、二八頃

同上

七〇、〇〇〇円

大阪市東区大手通二の三

溝淵法律事務所

同上

〃 四、一

同上

〃 五、一

同上

〃 六、一

同上

〃 七、一

同上

〃 〃三一

同上

〃 九、三

同上

〃 〃三〇

同上

〃 一一、一

同上

10

〃 〃三〇

同上

11

〃 一二、三〇

同上

12

三三、一、三一

同上

13

〃 二、二八

同上

14

〃 三、三一

同上

15

〃 四、三〇

同上

合計

一、〇五〇、〇〇〇円

別紙(二)

犯罪事実

被告人は、昭和三二年一一月二日頃、徳沢勇一より、同人所有の翡翠原石一個(時価不詳)を、千五百万円位で売却するか担保に差入れて千五百万円位借用する斡旋をして貰いたい、成功すればその半額は被告人に於て一時流用するも差し支えない旨の依頼を受けて預り保管中、早急に右価額で売却等の処分をすることが極めて困難であることを知り、当時累積する自己の旧債の弁済に迫られていたので、右原石を自己のため一時流用しようと考え、長男溝淵健一と共謀の上、同三三年二月一五日頃、大阪市東区森之宮東之町四百五番地株式会社船井ミシン商会に於て、寺林幸夫外一名を介し、同会社代表取締役船井哲良に対し、同原石を、擅に、自己のため、代金百万円で売却して横領したものである。

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